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Megaminx BLDへのいざない

本記事は、Speedcubing Advent Calendar 2020 の第22日目の記事です。
昨日はSystemaさんの「Icosaixの解法」でした。
明日はkazuさんの「7×7×7 L2Cについて」です。

キューブの世界は、しばしば登山にたとえられます。タイムを縮めることが山道を登るという行為に対応し、CFOPなどの解法は山道そのものです。これはあくまで私の考えですが、公式記録とはその山道をここまで登ってきたんだぞと「旗を立てる」ことではないかと思います。
さて、一方ではこのような「旗を立て」られないような秘境を求める者もいるでしょう。そう、非公式種目です。
Megaminx BLDも、そんな秘境のひとつです。いいえ、秘境でした。秘境を秘境たらしめるものは、秘境に至る道が無く、有ったとしてもせいぜい細い獣道であること、そしてそのために足を踏み入れる人が少ないことです。ひとたび道が拓いてしまえば、そこは秘境ではなく観光地。今から私が、この秘境を観光地へと変えます。




Megaminx BLDへのいざない
speedcubing2020samune



0.はじめに


まず、そもそも何故あんたが解説を?というところから。時は遡って2020年5月上旬。私はMegaminx BLDを成功させました。以下はその動画です。


せっかく成功したし、その方法を残しておこうと思ったのが発端です。書こう書こうと思っていたのですが、戦車のごとく重い腰はなかなか上がらず、遂にアドカレとして投稿できる時期になってしまった次第です。
なお、解法自体は海外のBLDの異端児、Gray Cuberによる解説を基に、私なりのアレンジをしたものになっています。

また、本記事は「3BLDができる」かつ「コミュテータをなんとなくでも知っている」方向けの内容ですが、そうでない方も是非読んでみて、異境の地の風を感じていただけたらなと思います。





1.解法


まずは解法について見ていきます。メガミンクスBLDの解法は、「3-cycleだけど1パーツずつ処理していく」というものです。
メインバッファとサブバッファを用意し、その二つと目標のパーツの三点交換をすることで揃えていきます。

3×3で例を見ていきましょう。
Scramble: D R U R' D' R U' R'
megabld1.gif
これをメインバッファをUFR、サブバッファをURBとし、セットアップと手順[U, R' D' R] = U R' D' R U' R' D Rおよびこの逆手順だけで揃えてみます。
普通に見たらUFR→RFD→FLDの三点交換ですが、これは(UFR→RFD→URB) - (UFR→URB→FLD)と見ることもできます。そして、それぞれは以下のようにして処理できます。

UFR→RFD→UBR... [U, R' D' R] = U R' D' R U' R' D R
UFR→UBR→FLD... D:[R' D' R, U] = D R' D' R U R' D R U' D'

ここから、奇数個目のパーツ交換はインターチェンジが先、偶数個目はインサートが先の3-cycleを回して処理していくことが分かります。これはエッジでもコーナーでも同じことが言えます。覚えておきましょう。


Advanced
ここではコミュテータをある程度理解している方向けに、本編から少し逸れた内容を扱います。余力がある方が流し読みをする程度で良いでしょう。むしろ内容を見て混乱しないためにスルーした方がいい可能性すらあるかもしれません。

先ほど出てきた、「奇数個目のパーツ交換はインターチェンジが先、偶数個目はインサートが先の3-cycleを回す」というセオリーですが、これに基づき処理をしていくには以下の条件を満足するバッファの置き方やコミュテータでなくてはなりません。
1.バッファとサブバッファはインターチェンジャブルな位置関係である
2.目標のパーツをバッファにインサートするタイプのコミュテータである

本腰入れてキチンと検証したわけではないので、これで必要十分かと問われると何とも言い返せないのが正直なところではありますが、この二つを満たしていれば恐らく大丈夫でしょう。

さて、2についてピンと来ない方もいるかもしれませんので、ひとつ例を見てみます。
Scramble: R U' R' E R U R' E'
バッファはUF、サブバッファはURとし、これをセットアップと手順[U', R' E R]およびその逆手順だけで揃えてみます。
UF→LF→FRという三点交換は(UF→LF→UR) - (UF→UR→FR)と見ることもできます。そして、それぞれの処理方法は以下の通りです。
UF→LF→UR... [R' E R,U']
UF→UR→FR... E':[U',R' E R]
ここで、前半の交換ではインサートが先、後半の交換ではインターチェンジが先のコミュテータを回しており、これはセオリーに反します。理由は、[R' E R, U']という手順が、バッファのUFではなくURにパーツをインサートするコミュテータだからです。

当たり前ですが、以降の本編で紹介するコミュテータ系の手順は上記の条件を満たしている手順ですのでご安心ください。そして実際にメガミンクスを回してみて、条件を満たしていることを確認してみてください。





2.ナンバリングと本記事独自の表記について


2-1.ナンバリング
3×3をはじめとする立方体パズルではUFやUFRなど、位置に名称がありますが、メガミンクスは正十二面体パズルであるという特性上、位置に名称が無い(或いは有ったとしても全く浸透していなかったり、煩雑になりやすかったりする)ため、このままでは解説どころではありません。故に、以降の解説では私のナンバリングを基に解説を進めていきます。

私のナンバリングは白U面、赤F面を基準面として、以下の画像の通りです。
エッジとコーナー両方のナンバリングを詰め込んでしまったため見づらいかもしれません。ごめんなさい…。

numbering1
numbering2

画像のように、各面と行を対応させています。
白:ア行
赤:カ行
緑:サ行
紫:タ行
黄:ナ行
青:ハ行
クリーム色:マ行
水色:ラ行
オレンジ:ガ行
黄緑:ザ行
ピンク:ダ行
灰色:バ行

日本語話者は、メガミンクスBLDを比較的始めやすいといえるでしょう。日本語は各行に五音ずつ置かれており、メガミンクスも同じく各面にエッジとコーナーがそれぞれ五つあるからです。とはいえ、ザ行をはじめとする濁音の行も使わなければ網羅はできません。


2-2.本記事独自の表記
本記事では解説をしやすくする目的で、以下のような表記を用いることにします。あくまで本記事における独自の表記です。

1.回転記号Dとは、以下の画像の白く塗られている層を回す動作であるとし、該当する層をF面に持ち替えたときに時計回りに回る方向をD、その逆方向をD'とします。また、本来の意味でのD回転、すなわちD面を動かす動作のことは、Dd回転と表記します。
yakinikutabetai

2.回転記号Dlとは、以下の画像の白く塗られている層を回す動作であるとし、該当する層をF面に持ち替えたときに時計回りに回る方向をDl、その逆方向Dl'をとします。
osusihitabetai

3.「○行の面」とは、上記のナンバリングにおける、行と対応する面のことを指します。(例:「サ行の面」ならば、緑の面を指す)





3.エッジ


3-1.基本手順
エッジのバッファはUF(ナンバリング「い」の位置)、サブバッファはUBr(ナンバリング「お」の位置)です。
buffer_edge

エッジを揃えるのに必要な手順は、3つだけです。
基本手順1: [U2, R L' F' R' L] = U2 R L' F' R' L U2' L' R F L R'
edge_1.png

基本手順2: [U2, R L' F2' R' L] = U2 R L' F2' R' L U2' L' R F2 L R'
edge_2.png

Edge flip: U R' U' R L F R' F' L' U2' R U R U' R2' U2' R U'
edgeflip.jpg

Caution: メガミンクスにおいて、U2とU2'やF2とF2'は別物です。注意しましょう。

セットアップと基本手順1と2、そしてその逆サイクルを使うことでほとんどすべてのエッジパーツを揃えることができます。先の項で述べたとおり、奇数個目ならばインターチェンジが先、偶数個目ならばインサートが先になります。また、分析中にサブバッファのパーツ、つまりナンバリング「お」に当たった場合は、文字としてはカウントしますが手順としては何もしなくてOKです。ただし、サブバッファのEO違い(ナンバリング「の」)に当たった場合はEdge flipを回しましょう。


3-2.具体的な処理方法
ここからは、各エッジに対して具体的にどうセットアップすればいいかを見ていきます。

・ア行の面: (対象のパーツがUFになるようにy方向持ち替え) +F2 +AUF →基本手順2
例:「う」ならば、y' F2 U →基本手順2
・カ行の面: U y' +(R回転で「く」の位置まで持ってくる) →基本手順1
・サ行の面: (L回転で「す」の位置まで持ってくる) +U2 y2' →基本手順1
・タ行の面: y2+(R回転で「つ」まで持ってくる) +U2' →基本手順1
・ナ行の面
「の」以外: U' y +(R回転で「ぬ」まで持ってくる) →基本手順1
「の」: Edge flip
・ハ行の面: (R回転で「ふ」まで持ってくる) →基本手順1
・マ行の面: U y' +(D回転で「め」まで持ってくる) →基本手順2
・ラ行の面: U2 y2' +(D回転で「れ」まで持ってくる) →基本手順2
・ガ行の面: U2' y2 +(D回転で「げ」まで持ってくる) →基本手順2
・ザ行の面: U' y +(D回転で「ぜ」まで持ってくる) →基本手順2
・ダ行の面: (D回転で「で」まで持ってくる) →基本手順2
・バ行の面:(Dd回転で「ぼ」まで持ってくる) +D2' →基本手順1





4.コーナー


4-1.基本手順
コーナーのバッファはUFR(ナンバリング「あ」の位置)、サブバッファはURBr(ナンバリング「お」の位置)です。
buffer_corner

コーナーを揃えるのに必要な手順は4つです。
基本手順1: [U, R’ D’ R] = U R' D' R U' R' D R
corner_1.png

基本手順2: [U, R’ D R] = U R' D R U' R' D' R
corner_2.png

CO U-case: R' U2' R U R' U R L U2 L' U' L U' L'
co_u.jpg

CO T-case: L U L' U L U2' L' R' U' R U' R' U2 R
co_t.jpg

コーナーもセットアップと基本手順を使えばほぼすべてのパーツを網羅できます。繰り返しになりますが、奇数個目ならばインターチェンジが先、偶数個目ならばインサートが先です。分析中にサブバッファに当たった場合もエッジと同様の処理で問題ありません。
ただし、サブバッファのCO違いが来た場合は少々面倒なので注意が必要です。
・R側(ナンバリング「ほ」)かつ奇数番目ならCO U-case、偶数番目ならCO T-caseを回す
・bR側(ナンバリング「ね」)かつ奇数番目ならCO T-case、偶数番目ならCO U-caseを回す
順番にも気をつけなくてはいけません。要注意。


4-2.具体的な処理方法
ここからは、各コーナーに対して具体的にどうセットアップすればいいかを見ていきます。

・ア行の面
「い」: L U y' →基本手順1
「う」: y2' F U2 →基本手順1
「え」: y2 R' D' U2' →基本手順2
・カ行の面
「か」: D' →基本手順2
「き」: D →基本手順1
「く」: U y' →基本手順1
「け」: L Dl →基本手順2
・サ行の面: (L回転で「す」まで持ってくる) +U2 y2' →基本手順1
・タ行の面: y2 +(R回転で「つ」まで持ってくる) +U2' →基本手順1
・ナ行の面:
「な」: U2' y2 D' →基本手順2
「に」: U2' y2 D →基本手順1
「ぬ」: U' y →基本手順1
「ね」: 上記参照
「の」: y2' F2 U2 →基本手順1
・ハ行の面
「は」: U' y D' →基本手順2
「ひ」: U' y D →基本手順1
「ふ」: 基本手順1
「ほ」: 上記参照
・マ行の面: (Dl回転で「ま」まで持ってくる) →基本手順2
・ラ行の面: U y' +(Dl回転で「ら」まで持ってくる) →基本手順2
・ガ行の面: U2 y2' +(Dl回転で「が」まで持ってくる) →基本手順2
・ザ行の面: U2' y2 +(Dl回転で「ざ」まで持ってくる) →基本手順2
・ダ行の面: U' y +(Dl回転で「だ」まで持ってくる) →基本手順2
・バ行の面: (Dd回転で「ぼ」まで持ってくる) +D2' →基本手順1





5.分析記憶


まず、分析記憶を行っていくうえで考えなければならない問題が存在します。
例えば、あなたは「じぢ」という語に対してどのようなレターペアを充てますか?普段のようにレターペアを用いた記憶をしていると、間違いなく作成不可能な文字列に遭遇します。
これに対して考えられる手段はふたつあり、一つ目は「文字と関係なくイメージを置く」です。例えば、前述「じぢ」には、その文字とは関係ないですが「しょうゆ」のイメージを充てるという具合ですね。二つ目は「文字とイメージを一対一対応させる」ことです。つまり、ステッカーの色→文字→イメージという変換を1パーツごとに毎回行うということです。こちらは少し回りくどいように見えます(実際そうではあります)が、用意するイメージが60個だけなので簡単であり、記憶の安定性を高められます。私もこの記憶法を使いました。余談ですが、この記憶法のおかげで普段3BLDなどでは出てこない推しの名前が使えたのは嬉しい事でした。
更に余談ですが「み」と「ら」です。

メガミンクスの記憶量は、エッジ約30文字+コーナー約20文字の計50文字です(メガミンクスのそれぞれのパーツの数から分かります)。これは4BLDの文字数とおおよそ一致します。ただし、私のように文字とイメージが一対一対応している場合は50イメージとなるため実質的な文字数はその倍の100文字分となります。こちらは、3×3キューブ5個分の文字数とおおよそ一致します。
いずれにせよ、BLDの訓練を積んでいれば苦になる文字数ではないでしょう。

記憶量は大丈夫として、やはり分析の難易度は高いといえます。普段使わない文字や見慣れないパーツが多く出てくるからです。これに関しては残念ですがもう慣れろというより他ありません。しかし、分析の方法自体は普段の3BLDとやることに変わりはないため、落ち着いてパーツを追っていけば大丈夫でしょう。

正しい文字数の判断も比較的容易です。バッファが絡まないループの数をa、バッファ以外で、正しい位置に入っているパーツの数をb、EO(またはCO)の数をcとすると、
・29+a-b+2c(エッジの場合)
・19+a-b+2c(コーナーの場合)
が正しい文字数となります。
そして、どういうわけかメガミンクスのパーツの分析文字数は必ず偶数になります(そのため、パリティについても考える必要もありません)。理由分かる人求む
すごくいい加減な言い方をすると、分析した文字数がエッジなら30、コーナーであれば20周辺の偶数であれば正しく分析できている可能性が高いといえるでしょう。





6.最後に


以上でメガミンクスBLDの解説を終了します。
解法自体は特別難しいわけではなく、記憶量も訓練を積んでいれば苦になる量ではありません。実行の難易度は高いですが、総じて慣れればメガミンクスBLD比較的簡単ではないかと思われます。

さて、私はメガミンクスBLDを「秘境」から「観光地」へと変えました。本記事はその「観光地」へといざなう地図となるでしょう。しかし、残念ながらこの地図は誰でも持てるものというわけではありません。
地図を持つ権利、それはあなたが「バカ」でなければならないということです。
公式記録重視のこの世界で非公式の種目、それも長時間で成功するかも分からないBLDを練習し、たとえ失敗しても折れずに続けられるのは紛うことなき「バカ」です。とびっきりの大馬鹿野郎です。しかし、それもまた良いじゃあありませんか。きっとこの記事を見てくださっているあなたは趣味でキューブをやっていることだろうと思います。せっかくの趣味ならば、たまには狂ってみるのも一興ではないでしょうか。

そして、本記事では全体を通してあたかも観光地が悪いものだというような文脈ではありますが、秘境だろうと観光地だろうとその風景が持つ美しさに変わりはありません。あなたがもし「大馬鹿野郎」なのであれば、ちょっと脇道に逸れて、この「観光地」に足を運んでみませんか?そこには普段の登山では見られない絶景が待っていることでしょう。

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